このような前兆があればすぐに診察を受けましょう
脳梗塞は多くの場合、本格的に発症する前に前兆となる症状が出ることで知れられています。以下のような症状が出たら脳梗塞の疑いがあるため、すぐに医師の診察を受けることを推奨します。
ろれつが回らなくなる
言葉が思ったように口から出なくなります。
ペンをうまく持つことができない
指先が思うように動かなくなり、ペンを落としてしまいます。食事中なら箸をうまく扱うことができません。
片目が見えなくなる
片目が突如として見えにくくなる、もしくはまったく見えなくなります。
身体の半分の自由が効かない
顔や手足の片側が麻痺したり、うまく力が入らなくなります。
相手の言葉がわからなくなる
相手の言葉を聞き取ることはできるのにその意味を理解できなくなります。
歩くときにバランスを崩してしまう
イメージ通りに手足を動かすことができなくなります。
めまいがする
めまいがよく起こるようになります。ひどいときには視界が揺らぎ、その場に座り込んでしまいます。
一過性脳虚血発作(TIA)とは何か
一過性脳虚血発作の概要
脳内には細かい血管が網の目のように張り巡らされていて、そこから供給される酸素や栄養を受けて脳は活動しています。しかし脳内の血管の一部が詰まったり、狭まったりする動脈硬化が起きると、充分な酸素が脳に供給されなくなってしまいます。血液が充分に供給されていない状態を『虚血』といいますが、これが起こった脳の部分には障害が生じ、麻痺などの症状となって表に出てきます。
『一過性脳虚血発作(TIA)』は、脳が一時的な虚血状態となることで神経症状が起きるものの、24時間以内に症状が改善するもののことをいいます。
一過性脳虚血発作はやがて症状が改善されますが、脳梗塞の前兆である可能性が高いため、充分な注意が必要となります。
一過性脳虚血発作となる原因
一過性脳虚血発作は以下の二つのことが原因で発症するといわれています。
閉塞性
血栓とは心臓や血管内にできる血の塊のことですが、その一部が血流に乗って体内を移動し、脳内の血管を詰まらせてしまうことがあります。血管が詰まった箇所にある脳の部位への血液の供給が不足することで障害が起こり、これが神経症状となって表に現れます。ここまでは脳梗塞と同じメカニズムですが、一過性脳虚血発作の場合は血栓自体が小さいために時間の経過によって自然に溶け出し、血流の再開によって神経症状も治まるのです。
血行力学性
脳に血液を供給する血管が元々から細く、そこにさらに血圧の低下という状態が重なることで血液の供給量が大きく下がり、結果として虚血状態に陥ります。
血圧が正常に戻れば血液の供給も正常になるため神経症状は治まります。しかし血圧がまた下がることで一過性脳虚血発作を繰り返すことがあります。
症状
一過性脳虚血発作でどのような症状が出るかは、どの血管が詰まったり狭まったりしたかで変わってきます。脳内の血管は『内頚動脈系』と『椎骨脳底動脈系』の二つに大別することができますが、どちらも首を通る太い血管で、脳内では細かく枝分かれした末梢血管として様々な機能を担います。それぞれ走行している部位が異なるため、症状も異なったものが出てくるのです。
内頚動脈系
手足の麻痺や痺れ、身体全体の脱力などの神経障害が見られます。また、言葉がうまく思い浮かばない、相手の言葉がわからない、一時的に片側が見えなくなる、という症状が出ることもあります。
椎骨脳底動脈系
ろれつが回らずに言葉をうまく話せない、めまいがしてその場に座り込みそうになる、といった症状が出てきます。これらの症状は、椎骨脳底動脈系が酸素や栄養を供給する延髄や小脳が司っている機能の障害です。
治療
一過性脳虚血発作の治療は脳梗塞への移行を防ぐことにありますが、その方法は発症した原因によって様々に変わってきます。
血栓ができた原因が弁膜症や心房細動などにあるなら、血栓ができづらくなる抗凝固薬などを内服します。原因がそれ以外にあるなら抗血小板薬による内服治療を行います。
動脈硬化が原因の場合には、動脈硬化が起こりやすくなる高血圧、脂質異常症、糖尿病という体質自体の改善・治療を試みます。
内頚動脈が異常に狭くなっていることが超音波検査で判明する場合もあります。このときには狭くなった部分の血管を治療する頸動脈内膜剥離術という外科的手術を行う可能性が出てきます。
心臓の持病があったり、高齢だったりするために手術を受けられないときには、カテーテルを用いて内頚動脈を血管を広げる頸動脈ステント術が有効となります。
症状が落ち着いても安心してはいけない
一過性脳虚血発作は24時間以内に症状が治まるという特徴を持ちます。そのため多くの人が「気のせいだったのか……」と思い、その状態を放置してしまいがちです。しかし一過性脳虚血発作は脳梗塞の前兆である可能性が高い疾病です。あるデータによると、一過性脳虚血発作を放置した人の6人に一人が3カ月以内に脳梗塞を発症し、さらにその半数は48時間以内に発症しています。
症状が消えたからといっても決して安心せず、すぐに医師の診察を受けて適切な治療を受けなければいけません。
発症した時に覚えておきたいFAST
『ACT FAST』とは主にアメリカで行われる脳梗塞(脳卒中)に対する意識を高めるためのキャンペーンです。次に紹介する3つのテストを脳梗塞の疑いがある人に行うことで早期に発見し、迅速な治療につなげることができます。
『Face』 フェイス・顔
口を大きく横に広げてもらいます。ちょうど「イー」の口の形です。
このとき脳梗塞の疑いがある人は麻痺によって口の片側が落ちてしまうことがあります。
『Arm』 アーム・腕
両腕を上に上げてもらいます。
このとき脳梗塞の疑いがある人は症状が出ている側の腕が上がりきりません。
『Speech』 スピーチ・言葉
『今日は朝の7時に起きました』など簡単な文章を声に出してもらいます。
このとき脳梗塞の疑いがある人は舌がうまく回りません。
『Time』 タイム・時間
上に挙げた3つのうちどれか一つでも該当するなら脳梗塞を発症している疑いがあすぐにでも治療を受けるようにしましょう。疑いに過ぎないから……とその状態を放置すると症状が悪化し、治療が困難になる場合があります。1分1秒でも早い治療を受けることでその後の症状の悪化を防ぐことが可能となるのです。
脳梗塞の前兆を感じたときに大切なこと
脳梗塞にはその症状が本格的に起こる前の前兆があります。それはめまいであったり、ろれつが回らないことであったり、一過性脳虚血発作であったりします。大切なのはどの症状であろうともその状態を放置せずに、すぐに医師の診察・治療を受けることです。
脳梗塞はプロフェッショナルによる早めの対応を受けることでその症状を最小限に抑える、もしくは未然に防ぐことができます。そのため躊躇したり、後回ししたりせずに、一分一秒でも早く病院に行くことが重要です。
ご自身はもちろん周りの家族や友人にも気になる症状が出たら迅速な行動を取るように心がけましょう。