脳卒中の後遺症の種類
運動障害
脳内において運動を司る部位が脳卒中によってダメージを受けると、手足などを動かす信号がうまく伝わらなくなります。それによって麻痺が生じ、それまで当たり前のようにできていた日常生活における行動が不自由となります。まっすぐ歩く、階段を上り下りする、箸を使って食べ物を口に運ぶ、ペンを使ってノートに字を書く、キーボードを打ってパソコンを操作する……そういったことができなくなるのです。
手足だけではなく舌や喉がうまく動かせなくなることもあり、そうなると発声や発音が不自由となって周囲の人間に意思を伝えることが難しくなります。また物を飲み込む「嚥下」が不自由になると栄養摂取に支障を来たし、健康を損ないやすくなるためとくに注意が必要です。
感覚障害
上記の運動障害を発症すると多くの場合、感覚障害も同時に発症します。これは運動障害の原因となる運動神経のすぐ近くに感覚神経が走っているためです。感覚障害を発症すると手足が痺れたり、触れたものの温度がわからなくなったりします。
構音障害、失語症
喉や舌の動きが不自由になると発音や発声に支障を来たすようになりますが、それだけではなく言語を司る部分が損なわれることで、言葉や文字そのものが持つ意味が理解できなくなるという事態に陥ることがあります。相手に伝えたいことがある、けれどどんな言葉を選べばいいかがわからない、それを文字で書くことができない、あるいは相手が口にしている言葉を聞き取ることはできるけれどその意味が理解できないというものです。
高次脳機能障害
脳卒中によって大脳がダメージを受けると高次脳機能障害という状態に陥ることがあります。これは「新しいことを覚えられない」「集中して物事を考えられない」「間違いに気づくことができない」という日常生活に大きな影響を及ぼすものです。
リハビリはいつから始めるのか?
脳卒中のリハビリテーションは発症直後から「急性期」、「回復期」、「慢性期(維持期)」という一貫した流れで行うことが推奨されています。
急性期のリハビリ内容
急性期のリハビリテーションは、脳卒中の発症直後からベッドサイドで開始されますが、その目的は『廃用症候群』の予防と、運動学習によるセルフケアを早期に自立させることにあります。期間としては発症直後から2週間までを指します。
脳卒中のリハビリでは発症直後から廃用・肺炎などの二次的障害を予防し、ダメージを受けた脳が自ら回復しようとする機能(脳の可塑性)を最大限に賦活(機能や作用を活発化させること)していくことが必要となります。もしも四肢の麻痺や構音障害などの障害が残ればその障害を最小限に留めるとともに、患者が生活を再建するための治療を継続的に行っていかなければなりません。リハビリテーションを開始する時期が遅れることで、その後の治療・回復に大きな影響を及ぼすため、急性期はその最初の一歩として非常に重要だということができます。
廃用症候群とは
身体と精神(知能や認識)は、使わない状態が続くことで機能低下を起こしてしまいます。症状としては筋力の低下、関節拘縮、心肺機能の低下、咀嚼・嚥下・消化機能の障害、脱水、低栄養、骨粗鬆症、鬱病や認知症などの精神機能の低下が見られます。
その多くは脳卒中などによる長期臥床(長く寝つくこと)によって引き起こされます。
回復期のリハビリ内容
回復期のリハビリテーションは、病院やリハビリテーション専門院などでリハビリテーションチームによって集中的且つ包括的に行われます。急性期から引き継ぐ形でリハビリテーションをさらに積極的に行うことで、移動・セルフケア・コミュニケーションなどの能力の最大限の回復と早期の社会復帰の実現を目指します。期間としては2週間から7ヶ月までを指します。
回復期では理学療法士(PT)や作業療法士(OT)といった専門職の人たちと一緒に体の動かし方や起こし方など様々な訓練を行います。ここにおいては大切なのは、単純に機能の回復ばかりに目を向けるのではなく、その患者がこれまでどのような人生を送ってきたのか、そして脳卒中を発症したことを前提としてこれからどのような人生を送っていきたいかを患者本人とそのご家族、医師たち医療スタッフのあいだできちんと意思の疎通を行うことです。リハビリは時としてつらく、厳しいものとなります。患者と医療スタッフのあいだだけではなく、ご家族とのあいだにも意見の相違や感情のもつれが生じることがあります。そのため全員がなるべく同じ目標やビジョンを持つことでリハビリテーション自体に明確な方向性がつき、患者はモチベーションを保つことができるようになるといわれています。肉体の状態にばかり目を向けてしまいがちですが、この時期は患者の心に寄り添うことが最も大切だといえるでしょう。
慢性期(維持期)のリハビリ内容
慢性期(維持期)のリハビリテーションは回復期で獲得・回復した能力を長期的に維持し、日常生活においてできることを拡げていくことを目的としています。期間としては7ヶ月以降のリハビリテーションを指します。
慢性期では後遺症の症状・状態がある程度、固定されています。そのため患者によってはそれ以上の機能の回復・改善が望めない状態を前にして生きる気力をなくしてしまう人も出てきます。そのため慢性期こそ患者の心のケアが重要になるともいわれています。「(今の状態で)自分に何ができるのか?」「自分は何をしたいのか?」。そういったことを患者とそのご家族がきちんと話し合い、それを実現するためにどのようなリハビリテーションを続けていくかを決めていきます。
またこの時期で最も気を付けなければいけないのは、いかにして再発を防止するかです。脳卒中は再発が怖い病気だといわれています。「脳卒中を発症する人は発症する理由があって発症する」ことがほとんどです。それは高血圧、脂質異常症、睡眠不足、ストレス過多など様々ですが、それらに注意しながら日々の生活を送ることが大切となります。
脳卒中のリハビリにおいて大切なこと
脳卒中のリハビリは後遺症の状態によってその内容は異なってきますが、原則的にどれも厳しく、また長きにわたるものとなります。そのためまず患者自身に不断の努力と忍耐が要求されます。
そして患者を支えるご家族・周囲の方にも同じように努力や忍耐そして何より理解が求められるといわれています。脳卒中の後遺症が出た人のほとんどは、それまで当たり前のようにできていたことが突然できなくなるという事態に襲われ、深い混乱の中に突き落とされています。そのため感情が乱れ、ときとして自身を最もサポートしてくれている人にさえ心にもない言動を取ってしまうことがあります。そのような事態に直面したご家族・周囲の方は深く傷つくことでしょう。しかし患者自身も深く傷ついていることをどうか忘れないであげてください。 リハビリは患者自身、医療スタッフそしてご家族・周囲の方が手を携え、一致団結して取り組むべきものなのです。