くも膜下出血の後遺症は出血箇所によって違う
くも膜下出血は一度発症すると、何事もなく社会復帰できる人は全体のおよそ25%で、多くの人に後遺症が出るという怖い疾病です。脳内にできた動脈瘤が破裂することで発症しますが、この動脈瘤ができる箇所によってどのような後遺症が出るかも変わってきます。
前交通動脈瘤
- 嗅覚脱失……感覚障害の一種で、匂いを感じられなくなります。
- 記憶障害……物事を新しく覚えることが困難になったり、覚えていたことを忘れてしまったりします。
- 人格変化……急に怒りっぽくなるなど性格がそれまでのものと変わってしまいます。
- 視床下部障害……体温調節、発汗、ホルモン分泌に異常を来たします。また拒食症や過食症という摂食障害や情緒障害を引き起こすこともあります。
内頚動脈瘤、中大脳動脈瘤
- 片麻痺……身体の片側に痺れや麻痺が出ます。
- 失語症……相手に伝えたいことがあるのにどんな言葉を選べばいいかがわからなくなります。
- 視力、視野障害……視野の一部が欠損します。
椎骨動脈瘤
- 下位脳神経障害……発声や嚥下機能に支障を来たします。
くも膜下出血によって引き起こされるその他の症状
再破裂
動脈瘤は一度破裂するとその一回では終わらずに、再び破裂する可能性が残ります。そして二回目の破裂(再発)は一回目よりも症状や後遺症が重症化しやすく、死の危険性もずっと高まります。そのためくも膜下出血の治療においてはいかにして再発させないかが重要となり、その目的のための手術をすることが一般的です。この手術はクリッピング法とコイル法という2種類が主で、それぞれに特徴や長所・短所があり、動脈瘤の状態や発生場所に合わせてどちらにするかを決めていきます。
水頭症
「水頭症」とは髄液の循環・吸収が何らかの原因によって異常を来たし,その結果として脳室と呼ばれる脳内にある部屋が拡大・膨張してしまった状態です。髄液は外部の衝撃から脳を守り、脳圧(脳内にかかる圧力)の調節や老廃物の除去、ホルモンや栄養因子の運搬など多岐に亘る機能を有していると考えられています。水頭症はくも膜下出血を発症直後に起こる場合と、発症後しばらくしてから(通常は1~2ヵ月後)起こる場合あります。水頭症になると頭蓋骨の内面に大脳半球が押しつけられる形になり、様々な障害が引き起こされるため、くも膜下出血を発症してから間もない時期に髄液を外に逃がす治療を行うことがあります。方法としてはカテーテルを脳室に注入して髄液を取り出すことで、内部の圧力を減らすのです。
脳血管攣縮
動脈瘤が破裂してから4~14日が経過すると、「脳血管攣縮」が起こることがあります。これは脳内の栄養血管が細くなる(縮む)現象ですが、それによって血流不足になり脳梗塞を発症させるおそれがあるため予防処置が不可欠となります。方法としては血管を拡げる効果を持つ薬剤や血液が固まりにくくなる薬剤を用いたり、くも膜下腔にできた血腫をできるだけ完全に取り除いたりします。
くも膜下出血の予防
くも膜下出血の後遺症は他の脳卒中(脳梗塞・脳出血)に比べて重症化する傾向にあります。また一度発症したあとに二度目の発症(再発)をすると後遺症はさらに重症化するのが通常です。そのためくも膜下出血はいかに予防するかがとても大切となります。
以下のようなことを実践すると、くも膜下出血の予防に効果を期待できます。
血圧コントロール
くも膜下出血を発症させる最大のリスク・ファクターは「高血圧」です。くも膜下出血は脳内の動脈瘤が破裂することで発症しますが、その直接的な原因は動脈瘤に負荷がかかることです。そしてこの負荷というのは血流によってもたらされます。そのため血圧が高いならば正常値に収めること、近づけることでくも膜下出血の発症を予防することができます。
すでに血圧が高いという診断を受けている方なら降圧剤の処方を受けているはずです。回数通りに飲むのを怠ったり、自分の判断で飲むのを中止したりする人がいますが、指示通りに服用するようにしてください。
食事に気をつける
わたしたちの身体は日々の食事によってつくられているため、食生活によって健康になることもあれば不健康になってしまうこともあります。塩分を多く摂り過ぎることは血圧の上昇へとつながり、それがくも膜下出血発症のリスクを高めます。また脂質を多く摂ることも血液をドロドロとさせてしまい、脳卒中を発症しやすくなります。塩分と脂質の取り過ぎには充分注意するようにしましょう。
禁煙
喫煙はくも膜下出血だけではなく全ての脳卒中を発症させるリスクを高めてしまいます。これは煙草に含まれるニコチンに血圧を上げる効果があるからです。実際に喫煙の習慣がある人は非喫煙者と比べると、くも膜下出血の発症率がおよそ3倍高くなるというデータもあるため注意しなければなりません。またここで注目したいのは喫煙の本数は発症率に影響しないという点です。一日に数十本吸う人も、数本しか吸わない人もその発症率はほとんど同じです。つまりニコチンを摂取する習慣があるかどうかが重要であり、くも膜下出血の発症を予防するなら完全に禁煙することが必要となります。
こう聞くと喫煙者の方は「煙草の本数を減らすことに意味はないのか」……と感じるかもしれませんが、そんなことはありません。いずれは完全な禁煙が必要となりますが、少しずつ本数を減らしていく禁煙方法もあるからです。しかし一気に本数をゼロにする方が成功率は高いともいわれているため、禁煙で悩んでいるなら禁煙外来を受診することも検討してください。
禁酒
アルコールも煙草と並んで脳卒中を発症させる危険因子として挙げることができます。過度な飲酒は控えるようにしましょう。とくに喫煙の習慣がある人はアルコールを口にすることで煙草も吸いたくなるものです。くも膜下出血の予防のために禁煙していたのにお酒を口にしたことでつい煙草にも手が伸びてしまう……そんな事態も考えられるため、禁煙をすると決めたなら同時に禁酒することもおすすめします。
疲労やストレス
「過労死」は働き過ぎが原因で死に至ってしまうことですが、世の中には過労死という名前の死因はありません。実際には働き過ぎて疲労が蓄積されたことを原因として心臓や脳が異常を来たし、それによって死に至るのですがその死因の中でも上位に位置するのが「脳卒中」とくに「くも膜下出血」です。極度の疲労や寝不足、ストレスは血圧を上げる効果があり、それによって動脈瘤に負荷がかかり破裂してしまうのです。
前兆を見逃さない
くも膜下出血は発症したらそのまま重症化することが多く、中には発症と同時に死に至ってしまう場合もあるおそろしい疾病です。脳内にある動脈瘤が破裂することで発症しますが、ときどき一部だけが破れて前兆ともいえる軽い症状が出てくることがあります。それが「頭痛」、「吐き気」、「意識障害」、「頭の後ろの違和感」です。これらの症状が出たら動脈瘤の一部が破れた疑いがあります。すぐにでも病院に行って検査してもらうようにしましょう。