くも膜下出血の前兆
脳を包む膜は多重構造になっていて、外側から「硬膜」、「くも膜」、「軟膜」という順番で脳を保護しています。「くも膜下腔」とはくも膜と軟膜のあいだにある空間のことで脳脊髄液で満たされていますが、そこに血液が流れ出すことでくも膜下出血は発症します。「くも膜」という名前は蜘蛛の巣のように入り組んだ形状をしているためそう呼ばれています。
血管にできる瘤のことを「動脈瘤」といい、この動脈瘤に何らかの理由で負荷がかかって破裂することでくも膜下出血は発症します。動脈瘤が発生する理由は実はまだくわしくはわかっていません。しかし枝分かれしている箇所など血管の脆い部分にできやすいという傾向にあるデータもあります。
くも膜下出血を発症したときに表に出てくる症状としては激しい頭痛、頭部の違和感、嘔吐、意識障害などが挙げられます。この中でも頭痛の症状は最も顕著で、「ハンマーやバットで思いきり殴られた」と表現されるほどに激しい痛みに突然襲われます。しかし頭痛を伴わずに発症することも珍しくありません。
「意識障害」も多く見られる症状です。眩暈を覚えてふらついたり、ときにはそのまま意識を失うこともあります。ボクシングやラグビーなどで脳震盪を起こした選手の家族には「夜寝るときに大きないびきをかかないか注意してほしい」と申し送りをすることがあります。これはくも膜下出血による意識障害の一種で、眠るように意識を失って大きないびきをかくことがあるのです。そのため頭を強打した人がいびきをかいて眠っていたら、「眠りについたのか」と安心するのではなく、むしろくも膜下出血を疑ってすぐに119番することを考えてください。
他にもくも膜下出血を発症する数日前には血圧が乱高下するという例も見られます。そのため血圧をチェックしておくことでその前兆に気づくことができる場合があります。
くも膜下出血を予防するための原則
くも膜下出血は日々の生活の中で予防することが大切になってきます。
以下のようなことに気をつけましょう。
血圧をコントロールする
くも膜下出血を発症する最大の危険因子は高血圧です。血圧が高くなると動脈瘤に圧力がかかり、それだけ破裂するリスクが高まります。すでに高血圧という診断を受けていて医師から降圧剤を処方されている人は指示通りに薬を飲むようにしましょう。医師の指示にはたしかな根拠があり、それを守らないと脳卒中を発症するリスクを高めてしまいます。
適度な運動習慣
運動の習慣が身についている人は効果的にカロリーを消費できるため体重をコントロールすることができます。また身体を動かすことで全身の筋肉や関節を健康に保つことができ、ストレスの発散にもつながります。
食生活の改善
また日々の生活においては塩分の多い食事を続けていると血圧は上がっていきます。今は市販の商品として減塩の食材や調味料が多く出ているので、それらを活用しながら塩分をカットした食生活を送りましょう。
アルコールの過度な摂取も血圧を上げ、くも膜下出血発症のリスクを上げる要因となります。またアルコールを摂取するときには塩分の多いおつまみを一緒に口にしがちなので、飲酒をするときは自制心を持ってほどほどにするように心がけましょう。
禁煙
煙草に含まれるニコチンには血圧を上げる効果があり、くも膜下出血が発症するリスクを高めることで知られています。実際に喫煙者がくも膜下出血を発症するリスクは非喫煙者と比べると2~3倍になるというデータがあります。すでに高血圧という診断を受けていて喫煙の習慣もある人は禁煙を検討することをおすすめします。
前兆に注意する
それまで経験したことのないような激しい痛みや後頭部の違和感、血圧の乱高下はくも膜下出血が発症する前兆だといわれています。こういった症状が出たら躊躇せずに病院に行き、診察・治療を受けるようにしましょう。
くも膜下出血が引き起こすこと
くも膜下出血を発症すると脳細胞がダメージを負う以外にも様々な問題が起こります。その中でも「水頭症」と「脳血管攣縮」と言われる疾病は代表的なものだということができます。
水頭症
水頭症は脳内にある部屋(脳室)でつくられる脳を保護するための液体(髄液)がくも膜下出血を発症したことで吸収されなくなり、それによって脳室が膨らみ圧力がかかっている状態です。くも膜下出血を発症してすぐに起こるパターンと、発症後1~2ヵ月が経過してから起こるパターンとがありますが、その区別は実際のところ曖昧なことがほとんどです。急性期(発症直後から2週間くらいまで)には水頭症を防ぐためにシリコン製の細い管を脳室に挿入し、髄液を外部に逃すことで圧力を低下させる治療を行います。またこの状態が長期化するときには、髄液に感染のおそれがないことを確認してから脳室と腹腔内を管で結んで逃げ道をつくる「シャント術」を行います。
水頭症はくも膜下出血を発症してからすぐに治療を受けることで、その発症を抑えられる可能性が高まります。
脳血管攣縮
脳血管攣縮とはくも膜下出血を発症することで脳の血管が縮み、血液の流れが悪くなっている状態をいいます。これはくも膜下出血により漏れ出した血液が脳血管と反応して起こると考えられていますが、詳しい原因は未だ解明されていないのが実情です。ただ出血の度合いにとって発生率が変化することがわかっていて、そのため早期に出血・血腫を取り除いて洗浄することが防止策として有効です。血腫を取り除く手段としては外科的な手術が代表的ですが、他にも管を用いて血腫を溶解させる薬を注入するという方法があります。また血管を拡張させる効果を持つ脳血管拡張剤を用いることで発症率を下げることが期待できます。それでも発生した場合には脳内の血流を促進させる手段を取る必要があります。具体的には輸血をしたり、動脈に血管拡張剤を注入したりすることで症状の改善を図ります。
くも膜下出血で大切なこと
くも膜下出血において大きな問題となるのが、重症化した患者に対する治療です。中にはそれ以上の回復・改善を期待できない方もいますが、回復を見込める方は長期入院が必要となる場合がほとんどです。長期入院は患者本人はもちろん、その家族にも重い負担を強いることになりかねません。そういった事態をなるべく避けるためにもくも膜下出血の症状をなるべく最小限に抑えることが重要となります。そしてそのために必要となるのが動脈瘤の早期発見です。現在は人間ドッグにおいて動脈瘤を発見することが比較的容易になっていて、破裂する前に取り除くことでくも膜下出血の発症を未然に防ぐことができます。
会社勤めの方なら現在の法制度では、一年に一度健康診断(人間ドッグ)を受けることが義務付けられているはずです。それでも面倒くさがったり、目の前の仕事に追われたりしてついつい後回しにしてしまう人がいます。また自営業の方の中にはそもそも健康診断を受ける習慣がないという人もいます。動脈瘤に限らず、あらゆる疾病は早期発見によって治療が容易になり、そのあとの発症を未然に防げる、もしくは症状を軽いものとすることができます。
自分の健康・命は自分で守るという意識を持ち、常に自分の身体に注意を向けるようにしましょう。