脳卒中がどのような症状を持つ病気なのか、正確に知っている人は決して多くありません。それどころか誤解を持たれている部分が多くあり、その一つが「(脳卒中は)急に発症する」というものです。脳卒中になったらいきなり意識不明になり、最悪の場合そのまま目を覚ますことなく命を落とす……このような勘違いをしている人がいます。しかし実際のところ脳卒中は本格的な発症の前に『前兆』が見られることがほとんどです。その前兆にどういうものがあるかを知ることで、前兆を脳卒中の発症を教えてくれるヒントとしてキャッチすることができるようになります。
脳卒中の前兆
以下のような症状が見られれば、脳卒中のリスク有り=危険信号だといわれています。
ろれつが回らない
舌がうまく回らなくなり、言葉が出てこなくなります。
食事中に箸を落とす
指先がうまく動かなくなり、箸などの食器を落としてしまいます。オフィスでペンを落とすことも同様です。
片目が見えない、視野が半分になる
突如として片目が見えなくなり、視野が半分になることがあります。
顔の半分や片方の手足の感覚がおかしい
顔や手足が痺れたり、身体全体を脱力感が襲います。
相手の言葉が理解できない
相手が普段と同じように話しているのに、何を言っているのか理解できなくなります。
バランスが取れずうまく歩けない
手足が思うように動かせなくなり、バランスを崩してしまいます。
頭が痛くなる
激しい頭痛に襲われます。
ひどいめまいがする
視界が揺らぐような眩暈が起こり、立っていられなくなってその場に座り込むこともあります。
初期症状をチェックするための『FAST』
アメリカでは脳卒中に対する意識を高めるために米国脳卒中協会が『ACT FAST』というキャンペーンを行っています。これは脳卒中の疑いがある人に対して3つのテストを行い、そのうち一つでも当てはまればただちに治療を受けることを推奨する、というものです。
『Face』 フェイス・顔
「イー」の形をつくるように、口を横に大きく広げます。
このとき脳卒中の発作があると、顔の片側や口角が下がってしまいます。
『Arm』 アーム・腕
両手を挙げます。
このとき脳卒中の発作があると、麻痺している側の腕が下がってしまいます。
『Speech』 スピーチ・言葉
「スーパーで買い物をします」など簡単な文章を声に出します。
このとき脳卒中の発作があると、ろれつがうまく回りません。
『Time』 タイム・時間
以上の3つのうち、一つでも当てはまるものがあれば脳卒中を発症している可能性があります。「まだそうと決まったわけではないし……」「違ったら手間になるだけだし……」などと躊躇せずに救急車を呼ぶ、自ら病院に行く(家族に連れていってもらう)など、1分1秒でも早く行動することが大切となります。
日頃気をつけておきたい生活習慣
脳卒中は生まれつきの血管の形や家族の病歴など先天的になりやすい体質の人もいますが、ほとんどの場合は生活習慣を原因として発症するといわれています。
具体的には以下のような生活習慣は脳卒中になるリスクを高めるといわれています。
タバコ
一説によると喫煙者が脳卒中になるリスクは非喫煙者に比べて2.2倍から3.5倍にもなります。また一日に20本以上吸う人と10本未満の人でもそのリスクは大きく変わらないといわれており、喫煙そのものが脳卒中のリスクを高めているということができます。
アルコール
アルコール=お酒の飲み過ぎは一般的に血圧を高め、そのため高血圧になりやすくなるといわれています。高血圧は血管を傷つけ、脳出血などを起こす原因となります。アルコールを飲み過ぎる人は、そうでない人よりも脳卒中を発症する年齢が10年早まるといわれています。また日本においてアルコールはそれだけで摂取することよりも、おつまみなどを伴うことが一般的です。そしてそういったおつまみは多くの場合塩分が高く、やはり血圧を高める要因となります。
一説によると、適度なアルコール摂取は血栓形成を促す=血液を固まらせる作用のある「フィブリノーゲン」というたんぱく質の値を低くすることで、脳卒中のリスクを軽減させる効果もあるようです。適量の目安としては1日に2ドリンクまで。しかし一度飲み始めるとなかなか量をコントロールできない人もいるでしょうから、日常的に飲酒する習慣がある人はその習慣自体を見直すことを推奨します。
肥満
肥満体の人は多くの場合、単に体重が標準値よりも多いというだけではなく、高血圧や脂質異常症などを発症しています。肥満によって引き起こされる以下の3つの症状はとくに脳卒中のリスクを高めるといわれています。
1.高血圧:
肥満体の人は食生活が乱れがちで、とくに塩分を過剰摂取している人が大半です。塩分の取り過ぎは血圧を高くしますが、その状態が続くと血管内壁を傷つけやすくなります。そして血管に負担をかけ続けることで動脈硬化を発症させ、それが脳卒中へとつながるのです。
2.脂質異常症:
血液中に脂肪=コレステロールが多い状態が続くと、動脈硬化になりやすくなります。
3.耐糖能異常:
糖尿病ほどの高血糖ではないけれど正常よりも血糖値が高い状態を耐糖能異常といいます。この状態が続くと血管内壁に白血球などが付着しやすくなり、動脈硬化になりやすくなります。
発症したら早期対応を
疑いがあればすぐに診療を
「もしかして脳卒中かも……?」 そう思ったなら迷うことなくすぐに119番をして救急車を呼ぶようにしてください。ドラマなどの影響なのか「脳卒中を起こしたら動かしてはいけない/動いてはいけない」と思っている人が多いようですが、それは間違いです。
脳卒中は発症してからどれだけ早く治療できるかが重要となります。『発症してから3時間から6時間のあいだに初期治療を受けられるか』が鍵になるといわれています。このあいだに初期治療を受けることができれば大きな回復を望むことができ、またその後の悪化も防ぐことが可能となります。
日本国内であれば救急車を呼べば通常なら十分以内には到着しますが、それが難しい状況なら家族に病院に連れていってもらうなどして、一刻も早く医師の診療を受けるようにしましょう。いずれにしろ「まだ脳卒中と決まったわけではないから……」といって安静にしながら様子を見るのは厳禁です
「もしも違ったら」……を考えない
実際に脳卒中の発作が起こったのにすぐに診療・治療を受けずに放置し、結果として状態を悪化させてしまう人は後を絶ちません。そういった人に「なぜすぐに救急車を呼ばなかったのか(病院に行かなかったのか)?」と聞くと、「おおごとにしたくなかったから」や「もしも脳卒中でなかったら時間や治療費が無駄になるから」という答えが返ってきます。
たしかに普段から病院に行き慣れていない人にしたら救急車を呼ぶことや病院に駆け込むことには心理的負担があるかもしれません。しかしあらためて強調したいのは、脳卒中は一刻を争う病気だということです。「きっと気のせいだ……」や「違ったら(大事にして)恥ずかしい……」と思わずに、すぐに医師に診療を受けるようにしてください。