脳梗塞はできるだけ早く治療を開始することが重要
脳梗塞の治療において大切なのは一分一秒でも早く治療を開始することです。それによって症状が悪化することを防げたり、最小限に抑えることができたりします。例えば血栓によって生じるラクナ梗塞では発症して発症してから4~5時間以内で、まだ脳の壊死が始まっていない状態なら『t-PA』という血栓溶解剤を用いることができます。
少しでも異変を感じたらすぐに医師の診察を受けるようにしましょう。
脳梗塞には3種類あります
ラクナ梗塞の特徴
頭蓋内は奥まった箇所に進むほど血管も細くなっていきます。その細い血管の中に血栓ができたり、動脈硬化を起こしたりすることで発症するのがラクナ梗塞です。
症状としては身体に力が入らない、言葉をうまく口にできない、手足が痺れるなどが見られますが重症になることはあまり多くありません。これは血栓自体が小さいためにそれが及ぼす影響も小さいからですが、再発を何度も繰り返すことで重症化する危険性を孕んでいます。とくに無症候性脳梗塞という自覚症状がない状態では、自分で気づくことができないためにその状態を放置してしまい、いざ症状が出たときにはだいぶ進行してしまった……という事態もあり得るのです。
アテローム血栓性脳梗塞の特徴
頭蓋内にあるラクナ梗塞の原因となる細い血管よりも太い血管が動脈硬化を起こすことで発症します。この動脈硬化の主な原因はコレステロールでそれによって血液がドロドロと固まりますが、ドロドロになった血液は詰まりやすくなったり、血栓ができやすくなったりします。
元来は欧米人に多いタイプの脳梗塞でしたが、生活習慣の変化によって現在は日本人もなりやすくなっているといわれています。
心原性脳梗塞の特徴
心臓内や頸動脈という血管は他の部位に比べて太くできており、そこにできる血栓はそのサイズも自然と大きくなります。大きい血栓が血流に乗って脳にまで移動し、そこで血管を詰まらせることで起こるのが『心原性塞栓症』です。血栓自体が大きいためその影響も大きくなり、麻痺の範囲や度合いなどが重症化する傾向にあります。ときとして命に関わる事態を引き起こすこともあるので注意が必要です。
一般的に心房細動、リウマチ性心臓弁膜症、心筋症、心筋梗塞という病気になると血栓ができやすくなるため、これらの病気を治療・改善することで心原性脳梗塞を予防することができます。
ラクナ梗塞の治療
ほとんどの場合手術の必要はなく、内科的治療によって治療・改善されることが大半です。
内科的治療としては血栓ができるのを抑える「抗血栓薬」や脳細胞を保護する「脳保護薬」を用いるのが一般的です。この抗血栓薬には点滴と飲み薬の2種類があります。
発症してから4~5時間なら脳の壊死はまだ始まっていません。この状態の場合のみ『t-PA』という血栓溶解剤が有効です。
血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法とは
『t-PA』という血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法は比較的新しい脳梗塞の治療法です。これはアルテプラーゼという血栓を溶かす効果を持つ薬を主として点滴静注で使用します。それによって脳梗塞の原因となっている血栓を溶かし、血液の流れを正常に戻そうというものです。あるデータによれば脳梗塞を起こしてから3時間以内にこの治療を受けることができれば、約50%の人が症状がほとんど出ないまでに回復しています。
血栓溶解療法は大きな効果を期待できる治療法ですが、注意点もあるといわれています。この治療法は元々は心筋梗塞において大きな成果を挙げていたものですが、それをそのまま脳の治療に応用できるわけではありません。なぜなら心臓に比べて脳は柔らかく、そのためずっとデリケートです。血栓溶解剤は滞っていた血流を元に戻す効果があるため、脳梗塞が起きて弱っている脳組織の箇所に血液が勢いよく流れることで血管が破れ、出血するリスクがあるのです。そのためこの治療法を行うときは担当医師とよく相談するようにしましょう。
アテローム血栓性脳梗塞の治療
アテローム血栓性脳梗塞の治療には「抗血小板薬」が用いられるのが一般的です。血液がドロドロになるのがアテローム硬化ですが、その進行は血小板血栓が形成されることが主な原因だといわれています。その形成を抑制できるのがプレタール、アスピリン、パナルジンなどの内服薬です。
「血行再建術」という外科的手術を状態次第では行うこともあります。高齢であることや何か持病があることで手術を受けるのが難しい場合は、カテーテルを用いる「頸動脈ステント術」が提供されます。
頚部内頸動脈ステント術とは
内頚動脈は脳に栄養や酸素を送る非常に重要な血管です。この血管が動脈硬化を起こすと脳への血流が弱まったり、血栓が脳内に飛びやすくなったりして脳梗塞になるリスクが高まってしまいます。頚部内頸動脈ステント術はカテーテルを用いて内頚動脈の動脈硬化を改善させることを目的とした外科手術です。
具体的な手術法としては足の付け根から動脈にカテーテルを入れ、頸動脈まで上げていきます。そして動脈硬化を起こしている内頚動脈内の箇所にステントというチューブを留置します。これによって物理的に動脈を押し広げるのです。実際にはステントを留置する際に生じる動脈硬化のカスが脳内に流れていくことを防ぐために傘(アンギオシール)を置いたり、細めの風船(バルーン)でまず血管を軽く拡げたりするなど、高度な技術を必要とする治療法だということができます。
心原性脳梗塞の治療
心臓内はいくつかの「心房」で分かれていますが、その心房が痙攣するのが「心房細動」という病気です。不整脈の一種ですが、心原性脳梗塞を発症する最も代表的な原因となります。脈が乱れるために動悸や息切れという症状として表に出てくることもありますが、中にはそういった症状が出ずに病気を放置してしまう人もいます。
心房細動が心原性脳梗塞の最たる原因となるのは、それによって血栓ができやすくなるからです。その血栓が血液と共に全身を巡って脳内に届き、血管を詰まらせることで心原性脳梗塞は発症します。このことから心房細動を予防すれば、心原性脳梗塞も予防できることになります。
心房細動は「抗凝固薬」を用いる薬物治療で症状を軽くすることはできますが、根治することはできません。根治するために必要となるのがカテーテル治療です。それによって実に7~8割の患者が心房細動の根治に成功しています。
心房細動のカテーテル治療とは
心房細動にだけ限ったことではなく、不整脈全般に対するカテーテル治療のことを「カテーテルプレーション」と呼びます。これはカテーテル(細い管)の先端から高周波を発して心房の一部に熱を加えることで不整脈を根治させるという方法です。カテーテルを挿入する箇所としては足や首の静脈で、そこから血管内を通して心臓まで進め、心房細動を起こしている箇所に対して治療を行います。こう聞くとかなり大がかりな手術に思えるかもしれませんが傷口はほとんど目立たないもので、身体全体への負担もそれほど大きくありません。